忍法旅日記⑯『龍泉洞編 其の伍』

体が重い…
まるで大岩でも背負わされているかのようにズシリと体が沈み込む。
遅れをとらぬようになんとか足を前へと踏み出すが、一歩進むごとに体がどんどん沈むばかりか吐き気までが湧きあがり、さっき食べたスルメが喉へと這い上がってくるのを必死で堪えた。
先程から体にのしかかっている不調の原因はこの瘴気だ。
龍泉洞の奥へと進むにつれ濃さが増している。
まだまだ半人前以下とはいえ一応は忍びの端くれ、厳しい修行にもそれなりに耐えてきたからこの程度で済んではいるが、常人ならすでに気を失っていてもおかしくない。

「あ、あねさま…ぎぼぢわるいです…」
「しっかり…と言っても、私もこんな濃い瘴気は初めてだわ」
「気合いいれろよ、飲まれるぞ」

分かってはいるが、このどうしようもない気持ち悪さでは、理性を保っていられるのも時間の問題だ。
そういう小次郎さんも流石に中てられているのか、額にじんわりと汗がにじんでいる。
先頭を行く師匠も同様だ。
手練れ三人でさえこの状態なのだ、足元にも及ばないへっぽこの私などひとたまりもない。
もし今敵に出くわしたら一歩も動けずそのままお陀仏だろう。

「最上、怪とやらはまだ奥なのか?」
「もう近いよ、この先にいる」

小次郎さんが少し苛立ちながら聞く。
重い頭をなんとかあげて師匠の指さす方を見ると、そこには一層濃い瘴気が渦巻いていた。
いやいや…
いや、無理でしょ…見てわかるくらい淀んでるのにあんなとこ行けないよ…
もう置いて行かれてもいいや…ここで座り込んでしまいたい…
そう思い項垂れていると、右腕をグイッと持ち上げられた。

「もう音を上げるの?」
「あねさま…」

自分も真っ青な顔をしているのに、私の体を支え励ましてくれる。
そんな姉さまを見て、私はなんて未熟者なんだろうと改めて思う。
体どころか心まで落ちてしまうところだった。
せめて足手まといにだけはならない様にしなければと、心新たに顔をあげた時、師匠が後ろを振り返り口元に人差し指を当て「静かに」と合図し、奥へと目配せをする。
その視線の先には、今まで見たこともない大きな生き物が蜷局を巻いていた。
禍々しい瘴気の渦の中に姿を現したそれは、全身を岩のような鱗で覆われており、蛇のように長く、鷲のような鋭い爪をもち、ナマズのような髭をたくわえている。

「…龍だ」

小次郎さんがため息を吐き出すように小さく呟く。
私たちの前に姿を見せた龍泉洞の主は、その名に相応しく威風堂々たる佇まいで訪問者を待ち構えていた。
あれが、怪の正体…?
こんな状態で、あれと戦うの…?
さっき姉さまに叱咤されてやっと持ち直したはずの気力も、目の当たりにした強大な敵に脆くも崩れ去った。
これ以上は下がらないというほど肩を落としていると、小次郎さんが忍特有の木の葉が擦れるほどの小さな声で作戦を話し始めたが、それは意外なものだった。

『一旦引くぞ』

いうや否や踵を返し、足音も立てず来た道を引き返すと、姉さまも師匠も無言でそれに続く。
いつもなら「えぇー!せっかく来たのに帰るんですか?!」などと生意気を言ってしまうところだが、今回ばかりは私も早くこの場を離れたくて仕方がなかったので、全力をもって三人の後について戻ることにした。
あの巨大な主はそんな私たちに気づいていないのか、それともただ去る者追わずなのか…
ピクリともその場を動くことはなかった。





「死ぬかと…思いました…」

なんとか瘴気の外にまで戻ってきた私たちは、みな一様に大きなため息をついた。

「おそらく、あれが尼僧の言っていた怪で間違いないだろう」
「そうでしょうね」
「あ、あんなの…どうやって倒すっていうんですか、あんな瘴気の中ではまともに動けませんよ><;」
「わめくなへっぽこ、だからこその撤退だろう」
「ですよね、もう諦めて帰りましょう!」
「出れないのにか?」
「じゃ、じゃあどうすればいいっていうんですか!」

小次郎さんは、岩壁にもたれ顎に手をやり少し考えるそぶりを見せた後、ゆっくり口をひらく。

「試したいことがある」
「試すって、何をですか?」
「俺たちは結界から出られないが、あの尼僧はどうだ?最上もあの尼僧に会ったんだろう?」
「うん。仙台で依頼を受けてすぐに出発したのに、着いた時にはもうここに居たかな」
「…やっぱり、同じか」
「あれ?じゃあ、あの尼僧は結界を通り抜けられるってことじゃないですか!私たちも出してもらいましょう!」
「で?その尼僧はどこにいる?」
「あ…(・_・;」

そうだ、尼僧のいる入り口まで戻れないんだから出してもらいようがない。
脱出できるかもと期待した私がばかだった。

「入り口まで戻れたら助けてもらえるのになぁ〜」
「無理だよ、入り口から結界が張られてるから。入ってすぐに脱出経路を確保するため一度出ようとしたんだけど、その時はもう出られなかったよ。尼僧もいつのまにか居なくなってた」

落胆して頭を抱え込む私に、師匠が両手を組んで上に伸びをしながらあっけらかんと言う。
絶対絶命のピンチのはずなのに、不安を感じさせない余裕の態度。きっと師匠は幾度となくこんな修羅場をくぐり抜けて来たのだろう。
しかしあの尼僧はほんと謎の人物だ、相当な力を持った人なのかな。
出るたびに結界破ってるの?
そんな力があるならあの龍も自分でなんとかできないのかなあ。
疲れのあまりそんな愚痴ばかりが頭に浮かんでくる。

「こんなところに出入り自由なんて…あの尼僧はよっぽどお偉い人なんですかね〜」
「もしくは、誰かの式なのかも…」

今まで黙って聞いて居た姉さまがポツリと呟く。
式というのは陰陽師が使役している式神のことだ。妖怪を使役したり、念を込めた人形(ひとがた)のことを式と呼んだりもする。

「俺もそうじゃないかと考えている。あの気配の無さも辻褄が合うしな」
「そうね…感情を持たない式なら結界を通り抜けられるかも」

どうやら二人が話しているのは後者の式のようだ。
私には結界のことはよく分からないが、人の殺気やなんらかの思いに反応して封じ込めたり防御したりするらしく、誰かに使役され自分の意思や感情がない式には通用しないということなのかもしれない。

「るーあん、式を出して結界を抜けられるか試してみてくれないか?」
「分かった」

姉さまは懐から人形に切られた紙を取り出し、ふぅ、と息を吹きかけるとそこに指で五芒星を書いた。
すると、その人形が風になびくようにバタバタと動いたかと思うと、姉さまの手から勢いよく飛び出しあっという間に見えなくなってしまった。

「ほぇ~、すごい勢いでいっちゃいましたね」
「これで式が結界をぬけられるといいんだが」
「でも、式が出れても私たちが出れないんじゃどうしようもないじゃないですか💦」

小次郎さんはわめく私をチラリと見ると、答えるのも面倒くさいと言わんばかりに「はあぁ」とあからさまなため息をつき、腕組をして壁にもたれたまま目を瞑ってしまった。
ぐぬぬ、何か馬鹿にされてるみたいで腹立つー!
いや、みたいでじゃなくてあきらかに馬鹿にされている!><;
そんなやり取りをしていると、しばらくして横に居た姉さまが何かに反応して顔をあげた。

「式が結界を抜けたわ」
「えぇ!?はや!」

それを聞くと、小次郎さんは体を伸ばしながら「よし」と言った。

「援軍を呼ぶぞ」
「え?!Σ(゚Д゚)」
「一人は心当たりがある。あとは、できれば仙台に薬の調合と治療ができる者がいればいいんだが」
「それなら私に任せて、ちょうど知人の薬師が仙台に来ているはずだわ」
「じゃあ頼む、その二人に式を送ってここに来てもらおう」

援軍って…
そりゃ仲間が増えるのはうれしいけども…だってここ…
わたしはおずおずと手をあげる。

「あ、あのー…ここ入ったら出れないのに来てくれますかね?」
「怪を倒せばいいだけだ」
「そりゃそうですけど…」

閉じ込められるって分かってて来てくれる人いるかなぁ…?
心当たりあるって言ってたけど、まさか小次郎さんそのこと伝えないつもりなんじゃ?
そう思いながら疑いの眼差しを向けると、小次郎さんは今まで見たこともないような悪ガキの顔をしてニヤリと笑った。

「旅は道連れっていうだろう?」

そう言い放つこの男を敵に回してはいけないと、私は悟った。
















※この物語はフィクションです。実在の人物等まったく関係ございませんm(__)m

信onであって信onでないそんな旅日記(笑)
どうもご無沙汰してしまいました💦
えーと、前回2月に更新しているので約3か月ですね…もう3か月更新にしようかな(^▽^;)
この旅日記を書き始めたのが2015年の11月。
龍泉洞編を始めたのが2016年の8月。。。
やばい!龍泉洞編だけで1年経っちゃうよ(>_<)
そんなことだから信on世界からどんどん置いて行かれちゃうんだ💦
1年以内には龍泉洞編終わらせます!!
あー誰かイラスト描いてくれないかなぁ(°▽°)

ちなみに余談ですが、今回出てきた人形(ひとがた)は、よく神社の夏の大祓(茅の輪くぐり)などで使いますね♪
あれに名前と年齢を書いて息を3回吹きかけ体をなぞり、その後忌火で燃やすと災厄を身代わりで受けてくれるといいます。
(※やってない地域もあります)
みなさまもお祭りの時に近所の神社を訪れてみてはいかがでしょうか(*'▽')

今回もいろいろツッコミどころ満載だと思いますが、どうぞ生暖かく見守ってください(/ω\)
ほんとお恥ずかしいです。。。
パスワード制にしようかと思ったけど、もしかしたら知人以外にも旅日記見てくれてる人がいるかもだし…
いないかもだけど…(笑)
とりあえず8月までに終われるようにがんばります(*'▽')ノ
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No title

いつのまにか召喚に!?

あねさま無双できそうですね!w

そうそう、きょうはINできそうですかー?

Re: るーあんさん

姉さまは今召喚だからちょうどいいね!(笑)
今日は遊べて楽しかったー(o^^o)
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